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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)4149号 判決 1993年5月26日

原告

金本菊雄

右訴訟代理人弁護士

藤田良昭

野村正義

縣郁太郎

原告補助参加人

観光日本株式会社

右代表者代表取締役

安達禮三

右訴訟代理人弁護士

井野口有市

被告

商工組合中央金庫

右代表者理事長

宮本四郎

右訴訟代理人支配人

首藤康之

右訴訟代理人弁護士

山田作之助

羽尾良三

被告

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

山口芳子

外一名

主文

一  被告商工組合中央金庫は、原告に対し、金三六九万四四〇〇円及びこれに対する昭和六三年五月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告国は、原告に対し、金三六万一九二〇円及びこれに対する昭和六〇年五月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の各請求を棄却する。

四  訴訟費用中、原告と被告商工組合中央金庫との間に生じたものはこれを一〇分し、その一を原告の、その余を被告商工組合中央金庫の負担とし、原告と被告国との間に生じたものはこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告国の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一被告商工組合中央金庫は、原告に対し、金四〇〇万円及びこれに対する昭和六三年五月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二被告国は、原告に対し、金一一五三万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年一二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一事案の要旨

本件は、原告が、根抵当権の実行により競売に付された土地につき、現況調査報告書等の記載から警察犬の訓練所の建設に適した土地と考えて競落し、その土地に犬舎等を建設などしていたところ、同土地は、競売対象土地ではなく、第三者の所有地であることが判明し、同土地からの明渡を余儀なくされるなどし、そのために買受代金(四〇〇万円)の他種々の損害(七五三万四〇〇〇円相当)を蒙ったとして、配当を受けた債権者である被告商工組合中央金庫(以下「被告商工中金」という。)に対し、主位的に配当金返還請求権(民法五六八条二項)、予備的に不当利得返還請求権に基づき配当金(四〇〇万円)の返還を請求するとともに、被告国に対し、国家賠償法一条に基づき損害賠償(一一五三万四〇〇〇円)を請求した事案である。

二争いのない事実等〔以下は、当事者間に争いがない事実及び本文中に記載の証拠並びに弁論の全趣旨(競売事件記録)により認めた事実である〕

1  根抵当権

訴外株式会社ジヤン(以下「ジヤン」という。)は、別紙物件目録記載の二筆の土地(以下「深谷の土地」という。)を所有していた。

深谷の土地には、被告商工中金を権利者とする根抵当権(神戸地方法務局三木出張所昭和五〇年四月二五日受付第四九三七号の昭和五〇年三月三一日設定・極度額三〇〇〇万円・債務者ジヤン・債権者株式会社北海道拓殖銀行の根抵当権が昭和五二年七月二〇日に被告商工中金に譲渡され、同出張所同月二三日受付第九五〇一号をもってその旨の根抵当権移転付記登記がなされたもの。以下「本件根抵当権」という。)が設定されていた。

2  競売開始決定

被告商工中金は、本件根抵当権に基づき、神戸地方裁判所(以下「執行裁判所」という。)に対し深谷の土地の競売を申し立て(昭和五七年(ケ)第一五〇号事件、以下「本件競売事件」という。)、同裁判所は昭和五七年六月三〇日競売開始を決定したが、債務者兼物件所有者ジヤンの代表者の所在が不明であったため、右不動産競売開始決定正本は、昭和五七年一二月二三日、公示送達により債務者ジヤンに送達された。

3  現況調査命令

執行裁判所は、深谷の土地について、昭和五八年一月一七日、神戸地方裁判所執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じ、現況調査報告書の提出期限を同年二月一七日と定め、神戸地方裁判所執行官佐藤武(以下「佐藤執行官」という。)がこれを担当することになった。

4  評価命令

執行裁判所は、昭和五八年一月一七日、不動産鑑定士池田武生(以下「池田評価人」という。)に対し、深谷の土地の評価を命じ、評価書の提出期限を同年二月二八日と定めた。

5  現況調査報告書

佐藤執行官は、昭和五八年三月二三日、現況調査報告書(<書証番号略>)を執行裁判所に提出したが、右現況調査報告書には、物件目録として深谷の土地の所在・地番・地目・地積が記載され、その形状を示すものとして、枝番八と九の位置を枠で囲った字深谷八八八番の字限図の写(別紙第三図。以下「深谷字限図」という。)が添付され、かつ、山の稜線に赤線を付して調査対象土地の位置の概略を示した山林の写真三葉(そのうちの一葉が別紙写真①である。)が添付されている。なお、同執行官が同月一七日午後一時一五分から同四〇分まで物件所在地で写真撮影及び立入調査を実施した旨の記載もされている。

6  評価書

池田評価人は、昭和五八年八月一七日、評価書(<書証番号略>)を執行裁判所に提出したが、右評価書には、評価対象土地として深谷の土地の地番が表示され、昭和五八年二月九日、同月二二日、同年三月一七日、同年八月六日の四回現況調査を行ったこと、評価対象物件は、三木市の北端付近、神姫バス「里脇」停留所の北西方約二キロメートル、宍粟谷大池の北東至近に位置し、周辺街路としては、幅員約二メートルの未舗装の山道が数本走るのみで、近隣には大きな池が点在し、標高の低い山々が続く自然林地域となっており、家屋は殆ど見られず、接面道路はなく、供給処理施設は全く未整備であり、現況は未利用の雑木林地であること、境界確定は困難であったが地元住人への聴問の結果概ね公図通りの形状と推定され、地勢は、南向きの緩やかな傾斜地である等と記載され、一平方メートル当たり三二〇円(合計八二万円)と評価されている(評価日昭和五八年八月六日)。なお、右評価書には、現況調査報告書と同様に枝番八と九を赤枠で囲った深谷字限図とほぼ同様の公図写(別紙第四図。以下「深谷公図」という。)及び宍粟谷大池の北東至近の位置に赤の丸印を付け、対象地と表示した「位置図」と題する一万分の一の地図(別紙第七図。以下「位置図」という。)並びに山の稜線から中腹にかけた位置に赤の楕円型の印を付け「対象不動産の現況写真」と題する二葉の写真(そのうちの一葉が別紙写真②である。)が添付されている。

7  物件明細書及び最低競売価格の決定並びに三点セットの備置

執行裁判所は、昭和五八年八月二四日、執行対象土地には賃借権の設定がなく、一括売却する旨の物件明細書を作成し、最低競売価格を八二万円と定め、物件明細書、現況調査報告書及び評価書の写(以下「三点セット」という。)は、同年一〇月三日から執行裁判所に備え置かれた。

8  期間入札及び落札

執行裁判所は、執行対象土地につき、期間入札(入札期間昭和五八年一〇月二一日から同月二八日)の実施を決定したところ、入札期間内に八名の入札者があり、同年一一月一日に開札した結果、原告が最高価買受申出人となった。そして、執行裁判所は、同月四日、原告に対し、右土地について四〇〇万円で売却を許可する旨の決定をした。

そこで原告は、同年一二月一六日、四〇〇万円を支払い、同月一九日、深谷の土地の所有権移転登記を経由した。

9  配当

執行裁判所は、昭和五九年一月二四日、本件競売事件の配当を実施し、競売申立人である被告商工中金に対し手続費用として三〇万五六〇〇円を交付し、同被告の貸付金等の債権に対し三六九万四四〇〇円を配当した。

10  原告による岡城の土地の占有

原告は、競落した土地が別紙第一図の青斜線部分(以下「青斜線部分」という。右部分は、兵庫県三木市口吉川町久次字岡城八八九番ノ四三山林二九九五平方メートルを含む字岡城の一部である。)であると考えて、ここに犬舎等を建設して使用していたところ、青斜線部分の一部は、山田松贇(以下「山田」という。)が所有し、西北神興産株式会社が管理する土地であったことから、昭和六一年七月になって右会社からその明渡を請求され、原告は明渡を余儀なくされた。なお、右八八九番ノ四三の土地は同年一二月売買により原告補助参加人に対し所有権移転登記がなされている(<書証番号略>、原告本人)。

11  青斜線部分の契約解除

原告は、昭和六二年六月二六日、ジヤンに対し、損害賠償請求訴訟を提起し(当庁昭和六二年(ワ)第六一二二号事件)、右事件の訴状において、執行対象土地は青斜線部分であるとの前提のもとに、その所有者である山田に同土地を売却する意思がないためジヤンが右土地所有権を原告に移転することは社会通念上不可能となったとして、民法五六八条一項及び五六一条に基づき青斜線部分の土地の競売による売買契約を解除する旨の意思表示をした。なお、右事件について、同年一〇月二八日原告の請求を認容する判決が言い渡され確定した。

12  ジヤンの無資力

ジヤンは昭和五七年に手形を不渡りにし、事実上倒産して以来無資力である。

三争点

1  深谷の土地の所在

(一) 原告の主張

深谷の土地は、別紙第三図の赤斜線部分(以下「赤斜線部分」という。)であり、真谷池に面している。

(二) 被告国の主張

深谷の土地が赤斜線部分であると断定できる資料はない。

2  配当金返還請求(被告商工中金に対する主位的請求)

(一) 原告の主張

執行対象土地は、執行官が現況調査によって特定した土地と解すべきところ、現況調査報告書によれば、本件執行対象土地は青斜線部分と認められるが、青斜線部分は山田の所有に属し、債務者であるジヤンがこれを取得して原告に移転することはできないから、原告は、民法五六八条一項、五六一条により、青斜線部分の売買契約を解除した。そして、ジヤンは無資力であるから、原告は、配当を受けた債権者である被告商工中金に対し、民法五六八条二項に基づき、原告が支払った買受代金四〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和六三年五月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告商工中金の主張

競売の対象は、競売開始決定に表示された担保権の設定された不動産であり、本件競売事件の対象は深谷の土地である。したがって、原告が競落したと信じて占有した土地が青斜線部分であったとしても、それは原告の単なる錯誤に過ぎないから、権利の欠缺による担保責任(民法五六一条)が生ずる余地はない。

3  不当利得返還請求(被告商工中金に対する予備的請求)

(一) 原告の主張

原告は、現況調査報告書等により本件執行対象土地は青斜線部分であると信じてこれを買い受ける意思で落札したものであり、目的物の同一性に錯誤があるから、本件競売は無効である。しかるところ、ジヤンは無資力であり、原告は、買受代金四〇〇万円の返還を受けられないから、同額の損害を蒙ったところ、被告商工中金は、本件競売事件の配当金として右四〇〇万円の交付を受け、同額の利得を得ているが、競売手続が無効である以上、被告商工中金の右利得は法律上の原因を欠くことになる。

よって、原告は、被告商工中金に対し、不当利得返還請求権(民法七〇三条)に基づき、右四〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和六三年五月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告商工中金の主張

(1) 被告商工中金は、本件競売事件の手続費用として三〇万五六〇〇円を、昭和五五年六月九日付貸付金等の被担保債権について三六九万四四〇〇円の競売配当金を受領したものであり、法律上の原因を欠くものではない。

(2) 原告は、深谷の土地の所有権及びその登記名義を有しているから、損失はない。

また、原告は、被告国から買受代金について四〇〇万円の損害賠償を受けることができるから、損失がない。

(3) 不当利得についての抗弁(現存利得の不存在)

被告商工中金は、本件競売事件において本件根抵当権設定登記を抹消されているところ、右登記を回復する方法がなく、ジヤンも無資力であるから、結局ジヤンに対する債権及び担保権の行使ができず、利得が現存しない。

4  被告国に対する国家賠償法一条による損害賠償請求

(一) 原告の主張

(1) 執行官の過失

佐藤執行官は、執行裁判所の命で本件競売事件の現況調査を行った際、調査不十分のため青斜線部分を深谷の土地と誤り、執行対象土地として青斜線部分を示す現況調査報告書を作成し、これを執行裁判所に提出した。

ところで、執行官は民事執行法五七条に基づき執行裁判所に命じられて競売物件の現況調査を行うべきところ、現況調査をするためにはその前提として競売対象物件を現地において特定する必要があるから、右特定も現況調査の内容となると解すべきである。佐藤執行官は右のとおり執行対象土地の特定を誤ったのであるから、その点に過失がある。

(2) 損害

(イ) 買受代金 四〇〇万円

本件競売は、目的物の同一性に錯誤があり無効であるが、ジヤンが無資力であるため、買受代金四〇〇万円の返還を受けられず、原告は、同額の損害を蒙った。

(ロ) 犬舎建設費用等 五七三万四〇〇〇円

原告は、現況調査報告書等の記載及び添付写真等に基づいて事前調査した結果、青斜線部分であれば、南向きの緩斜面であり、立ち入りも容易であるから、警察犬の訓練所建設に適した土地であると考えて落札し、その後警察犬訓練所の建設工事として、青斜線部分を整地し、井戸を掘削し、右土地上に犬舎等を建てるなどし、左記費用(合計五七三万四〇〇〇円)を支出したが、青斜線部分が使用できなくなったために左記各費用の支出が無駄になり、同額の損害を蒙った。

プレハブ住宅代 一一〇万円

井戸掘作業用機械リース代 五万円

井戸側土留 五万四〇〇〇円

犬小屋建築用パネル 六万円

人夫費用(訴外津田仁分)

一八〇万円

(訴外金本健分) 七五万円

(原告本人分) 一八〇万円

発電機代 六万円

チエンソー代 三万円

のこぎり代 三万円

(ハ) 犬の死亡 一八〇万円

原告は、競落により青斜線部分を警察犬の訓練所として使用できるとの前提のもとに、シェパード、ドーベルマン等の犬二六、七頭(一頭の価格は三〇万円を下らない)を購入し、青斜線部分に施設を建設し、運動等をさせていたが、同土地を明け渡さざるをえなくなったため、自宅で飼育することを余儀なくされ、右犬のうち二二、三頭が運動不足とストレスのために死亡した。そのうち六頭分の購入代金は一八〇万円を下らず、原告は同額の損害を受けた。

(3) よって、原告は、被告国に対し、国家賠償法一条に基づき、前記損害合計金一一五三万四〇〇〇円とこれに対する買受代金の支払日の翌日である昭和五八年一二月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告国の主張

(1) 執行官の無過失

民事執行法施行前の旧民事訴訟法下での不動産競売においては、執行機関の責任において物件の調査が行われることはなく、その負担は専ら買受希望者に委ねられていた。民法上も、これを反映し、競売には瑕疵担保責任の適用はないとされている。このような旧法下の不動産競売の制度は、裁判所が実質上の売主として、売却の手続は進めるものの、通常の売買と異なり、裁判所は、物件の所在等の情報を把握することが困難であること、また、民事執行は、大量の事件を迅速かつ能率的に処理することが要求されることから、物件の調査については、買受希望者の負担とせざるを得ないという事情に基づくものであり、このような事情は、現行の民事執行法下でも何ら変わっていない。

民事執行法は、執行官の現況調査の制度を導入したが、右に述べた事情からすれば、物件の所在等の調査の負担を買受希望者から、執行機関に移したものと解すべきではない。あくまで、物件調査の負担は買受希望者にあることを前提としながら、売却の適正化を図るために、執行官及び執行裁判所による事実調査に関する規定の整備がされたものにすぎない。このことは、民事執行法の制定に伴い、瑕疵担保責任の適用除外を定める民法が改正されなかったことからも明らかである。

このように執行官には、売却対象不動産の特定のための調査義務はないが、買受希望者の便宜を図り、民事執行の円滑な進行を図るため対象不動産を特定する必要があることは否定しない。しかし、時間的、経済的制約を考慮すれば、宅地等価値の高い物件と人里離れた山林などの低利用地とを同列に論じることは相当でなく、調査対象物件の性格から、特定が困難である場合には、入手可能な資料の範囲内での一応の特定にとどめることも許容されると解すべきである。

結局、現況調査の手段方法・程度については、各事案ごとの現況把握の必要性の程度や入手可能な資料の範囲及び各資料の信頼性等を総合考慮した上での執行官の合理的な裁量により決せられるべきものであり、執行官において、右裁量権を著しく逸脱したときに初めて注意義務違反の問題が生じるというべきである。

しかるところ、山林は一般的にその所在や境界を確定することが容易でないことが多く、ことに近隣に人家などがなく、手入れもされず、人の立入りがまれな場合など、隣地所有者等を捜索し、事情を聴取することも容易でなく、的確な資料の入手も困難であり、その確定が至難であることは、山林の境界確定事件等からよく知られているところである。しかも、このような山林は一般的にその評価額が低く、いわゆる「一山いくら」で取引されることも少なくないのであって、その所在如何によって評価額が大きく変化することはないのが通常であって、評価のためには、正確な所在ないし境界を確定する必要性はなく、どの付近にあるのかが特定されれば十分な場合が多い。このような物件の競売に当たって、訴訟事件にも匹敵するような現況調査を行えば、その調査費用は評価額すら上回ってしまうことにもなり、山林の執行は費用面から事実上不可能にさえなりかねないのであって、民事執行法の予定するところではない。

以上のような事情から、山林などの低利用地については、その所在や境界の特定のために、必ずしもなし得る限りの綿密な調査を行うことなく、一応の特定でもって売却を実施し、正確な特定は買受人の調査などに委ねるというのが、現在の実務慣行であり、このような実務慣行は、民事執行法も許容しているものというべきである。

そこで本件について検討するに、本件の場合、佐藤執行官は、池田評価人の所在調査を相当として現況調査を実施したものであるから、佐藤執行官の過失を判断するためには、池田評価人の調査の相当性を検討する必要があるところ、池田評価人は、債権者(被告商工中金)提出の物件案内図(別紙第六図。以下「案内図」という。)及び付近の一万分の一の地図(位置図)を参考にして、執行対象土地のおおよその所在を把握するとともに、付近で農作業中の者に「深谷」の小字を確認したうえ現地に臨んで深谷公図と地形とを照合し、青斜線部分のやや東側に深谷の土地があるものと考えたが、公図は現地復元性を有しないことを考慮し、位置図の赤楕円型の付近に所在するものと判断したものであって、本件執行対象土地が人里からかなり離れた未利用の雑木林地であり、公図上明確な里道等もなく、所有者も所在不明である等の事情を考慮すれば、当時容易に入手しえた資料に基づく判断としては十分に合理性を有するものである。したがって、池田評価人の右判断を相当とした佐藤執行官の現況調査にはなんらの落ち度はなく、執行官の合理的裁量を逸脱するものではない。

(2) 相当因果関係の不存在―原告の誤判断

原告は、本件競売事件記録中、執行対象土地が「宍粟谷大池の北東至近に位置する」と記載されているのを同池の北東岸であると読み間違え、しかも現地に赴きはしたものの、右記録に依拠する以外には自ら十分な調査をすることもなく、執行対象土地を宍粟谷大池に面する青斜線部分であると速断し、その結果、執行対象土地を佐藤執行官が特定した土地とも池田評価人が位置図等に示した位置とも異なり、これらより西側にある青斜線部分と誤ったものである。

よって、原告は自らの過失により執行対象土地は青斜線部分であると判断したに過ぎず、佐藤執行官による執行対象土地の特定と原告の誤判断による損害との間には因果関係がない。

(3) 相当因果関係の不存在―特別損害

警察犬の訓練所という利用目的は、本件執行対象土地の通常予測されない利用目的であるから、買受代金以外の損害は特別損害にあたるところ、被告国には右目的は予見不可能であった。

(4) 過失相殺

原告は、現況調査報告書等の記載を誤解したうえ、買受希望者自らなすべき執行対象土地の調査が不十分であったため、執行対象土地の所在位置を誤ったものであり、しかも、犬の訓練所という特殊な用途を見込んで買受けの申し出をしたにもかかわらず、事柄の性質上、予め近隣住民の了解を取るべきであるのにこれも怠ったため、執行対象土地の所在を誤ったものであって、その過失は重大であるから、九割を越える過失相殺がなされるべきである。

第三争点に対する判断

一深谷の土地の位置について

証人末本清の証言によれば、同人は、昭和六一年から昭和六二年の間、兵庫県三木市口吉川町久次地区の区長を勤めていたところ、区長が代々引き継いできた図面の中に、口吉川町久次地区山林字限図(<書証番号略>。別紙第二図。以下「久次字限図」という。)や字岡城八八九番の字限図(<書証番号略>。別紙第五図。以下「岡城字限図」という。)が存在することが認められる。

そして、久次字限図を元に深谷字限図及び岡城字限図を対照すると、久次字限図は図面の上がほぼ北になっているが(方位も記入されている)、深谷字限図は図面左が北であり、岡城字限図は図面下が北であることが分かり、深谷字限図の入江のようになった二つの湾曲部が真谷池の入江と符合し、岡城字限図の湾曲部が宍粟谷大池から岡城池に連なる部分に該当することが推認される。

加えて、右証人の証言及び後に久次地区の開発計画のために作成された図面(<書証番号略>。別紙第八図。以下「開発図」という。)を比較すれば、右三枚の字限図の形状が真谷池や宍粟谷大池の入江のくびれやその周囲の山の尾根や谷の位置関係とよく符合しており、宍粟谷大池の東側にあるのは字岡城であり、字深谷は、宍粟谷大池の北側にある真谷池の東側にあることは明らかである。

しかし、右各字限図の由来は明らかでなく、しかも一般に字限図(公図)は、明治年間に地租改正に際して作成されたものであり、山間部等においてはその正確性には問題が多いとされており、これらのみで小字深谷内の各枝番の位置までを確定することは困難である。また、開発図は、証人吉見哲生の証言によれば、久次地区の開発を計画していた企業が区長らの協力を得て作成したもののようであり、開発プランの説明会には一部地主も参加していたことが窺われ、参加した地主から特に異論も提起されていなかったようであるから、ある程度正確な図面であると推測できるが、各土地の所有者の承認を受けたものとまでは認められないから、これによって深谷の土地の位置を決定することも問題がないわけではない。したがって、これらの資料のみでは、深谷の土地の位置を確定的に判断することはできないが、各資料を比較検討すれば、概ね赤斜線部分に近い位置に深谷の土地が存在すると推認するのが相当であり、いずれにせよ佐藤執行官や池田評価人が認識していた土地や青斜線部分とは明らかに異なる。

二被告商工中金に対する主位的請求について

1  本件競売の対象土地

(一)  任意競売は、担保権の設定された不動産の強制換価手続であり、当該不動産について競売開始決定をするのであるから、その対象物件は、特段の事情がない限り、現に担保権の設定されている当該不動産であることは当然である。しかし、競売開始決定がなされた不動産が甲土地であるのに、現況調査においてこれと明らかに異なる乙土地について権利関係等を調査し、評価も乙土地について行われ、その結果、形式的には甲土地の地番を表示して競売手続をすすめているにもかかわらず、執行裁判所も現況調査等で特定された乙土地を甲土地と誤って認定し、実際には乙土地を執行対象土地と認識していたことが現況調査報告書及び評価書並びに物件明細書の各記載から客観的に認められ、かつ、競落人もこれらの記載から対象を乙土地と認識し、乙土地の買受申出をした場合は、甲土地の地番が表示されていても、乙土地が競売の対象とされたものと解するのが相当である。

(二)  しかるところ、現況調査報告書も評価書も物件目録として深谷の土地の目録と深谷字限図及び深谷公図を添付しているから、深谷の土地を競売の対象とする趣旨であることは明らかであるが、現況調査報告書添付の写真(別紙写真①等)並びに評価書(<書証番号略>)の記載(宍粟谷大池の北東至近に位置し、南向きの緩やかな傾斜地)、添付図面(位置図)及び写真(別紙写真②等)によれば、両者の指示する位置はやや異なるものの、いずれも執行対象土地の所在は、概ね宍粟谷大池の北東に連なる低い山の尾根の南斜面(青斜線部分の東側半分位とさらに東側の斜面を含む辺り。以下「本件対象地」という。)であるとしている。佐藤執行官も池田評価人も、それ以上に境界までも具体的に特定しているわけではないが、右斜面は、宍粟谷大池に面しているから字深谷ではなく、字岡城の一角であることは明白である(<書証番号略>、原告本人、検証)。そうすると執行裁判所は、「本件対象地」を深谷の土地と誤認し、これを競売の対象としていたものと認めるのが相当である。

(三)  そして原告は、現況調査報告書及び評価書等に基づき、青斜線部分を本件競売の対象と認識していたことが認められる(原告本人、検証)。

(四)  そうすると、本件競売の対象は、深谷の土地ではなく、青斜線部分に近い岡城の土地(「本件対象地」)であったと認めるのが相当である。

2  そして、前記のとおり、「本件対象地」は山田らが所有していたところ、ジヤンにおいてこれを取得して原告にその所有権を移転することはできず、原告はジヤンに対し、本件競売による売買契約を解除する旨の意思表示をしたが、ジヤンは無資力であることが認められる。

3  よって、被告商工中金は、民法五六八条二項により、本件競売で交付された配当金三六九万四四〇〇円を原告に返還する義務があり、右三六九万四四〇〇円と訴状送達の翌日である昭和六三年五月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める主位的請求は理由がある。

なお、原告は、被告商工中金に交付された四〇〇万円全額の返還を求めているが、民法五六八条二項は、債権者が配当を受けた限度で返還する義務を認めているものであり、右四〇〇万円の内三〇万五六〇〇円は、競売手続費用に相当するものであって、同被告の債権に対する配当金ではないから、その返還を求める部分は理由がない。

三被告商工中金に対する予備的請求について

主位的請求で返還を受けられない競売手続費用相当分の関係で予備的請求について検討するに、原告は、本件競売が錯誤により無効であることを前提にして、原告が出捐した買受代金相当の損害を被り、右買受代金の交付を受けた被告商工中金が同額の利得をしていると主張するが、競買の申出に要素の錯誤があっても、当該競売の効力について別訴で争うことは許されない(最高裁昭和四三年二月九日第二小法廷判決・民集第二二巻第二号一〇八頁参照)から、原告の右請求は前提を欠き許されない。

四被告国に対する国家賠償法一条による損害賠償請求について

1  執行官の過失の有無

(一) 本件現況調査の実施状況

証拠(<書証番号略>、証人池田武生、同佐藤武、同末本清)によれば、次の事実が認められる。

(1) 佐藤執行官は、昭和五八年一月一七日、執行裁判所から命じられた深谷の土地の現況調査を担当することになり、執行裁判所から案内図及び深谷字限図を受領した。

同日、池田評価人は、深谷の土地の評価を命ぜられ、案内図とともに深谷字限図の交付を受けた。

執行対象土地の所在、形状等の調査は本来執行官の職分であるが、当時、神戸地方裁判所執行官は、慣行として物件の所在調査は評価人に依頼しており、評価人の行った調査結果に異存がなければ、それをもとに現況調査報告書を作成する取扱をすることもあった。

佐藤執行官は、執行対象土地が山林であり、所在を把握するのが困難であると考え、評価人と一緒に探そうと思って、池田評価人に連絡したが、同人が探してくると言ったので任せることにした。

(2) 池田評価人は、昭和五八年二月九日、神戸地方法務局三木出張所で深谷公図を筆写し、三木市役所に赴いて同市口吉川町久次地区の一万分の一の地図(位置図)を買い求めた。

池田評価人は、同月二二日、これらの資料を元に現地に赴き、中国自動車道の吉川インターを下りて、里脇橋を経て、久次地区に入った。最初の集落を過ぎたところに荒神社があり、その付近で農作業をしていた者と出会ったので、五〇メートル程離れたところから、小字深谷を尋ねたところ、「この道を真っ直ぐ行って大きな池を曲がったところ」と言いながら、指で右の方を示したので、位置図の赤線に沿って約一キロメートル北上し、宍粟谷大池にぶつかったところから右に折れた辺りで、案内図等の前記図面を比較対照しながら現地を見分し、深谷の土地の所在を探索した。

池田評価人は、深谷公図の上を北と判断し、また、経験上、山林と農地を同一の公図に記載することは少ないことから、深谷公図の左右二箇所にある山林に囲まれた入江状の部分(以下「入江部分」という。)は農地であると判断していたところ、宍粟谷大池を右に曲がったところに田があり、その北側の山林に二箇所窪んで谷のようになり雑木の繁った平坦な地形が認められ、案内図の○印の位置とも符合しているので、その平坦部分が深谷公図の入江部分の農地に対応し、耕作しなくなったために雑木林になっているものであり、したがって、深谷の土地は、公図上、右側の入江部分の奥にあるから、位置図の赤○付近にあるものと判断した。したがって、池田評価人の認定した深谷の土地は、宍粟谷大池に面するものではなく、同池の北東至近の南傾斜地部分となる。そして、池田評価人は、執行対象土地と判定した部分の写真(別紙写真②等)を撮影した。

(3) その後、池田評価人は、深谷の土地の位置が大体わかったと佐藤執行官に連絡し、昭和五八年三月一七日、両名は同道して現地に赴いた。佐藤執行官は、宍粟谷大池を右に曲がった辺りで、歩きながら池田評価人から対岸の山林を指で示されて、執行対象土地の大体の位置を知り、深谷字限図と案内図を参照したところ、地形的に似ていると思ったので、その部分の写真(別紙写真①等)を撮影した。

この日の現地調査は、約二五分間で終わり、佐藤執行官は、池田評価人から地元住人に聞いた旨を告げられてはいるが、特にその内容を確かめることもなく、また、池田評価人が執行対象土地を特定した根拠の説明も聞いておらず、地元住人からの事情聴取も全く行っていない。

(4) 佐藤執行官は、その後もこの現地調査以外に何らの調査をすることなく、提出期限(昭和五八年二月一七日)を一か月余り過ぎた同年三月二三日、執行裁判所から交付されていた深谷字限図の字深谷八八八番の八と九を枠で囲い、撮影した三葉の写真に写った山林の尾根の部分に赤のサインペンで弧線を引いて執行対象土地を示し(別紙写真①参照)、これらを添付した現況調査報告書を作成して、執行裁判所に提出した。

(5) 池田評価人は、提出期限(昭和五八年二月二八日)を大幅に過ぎて執行裁判所から督促を受けたが、執行対象土地の境界が不明確であるとの懸念があったことから、同年八月六日、三度現地に赴いた。しかし、新しい情報を得ることもできなかったので、執行対象土地の位置を正確に示すことができないことから、該当すると思われる付近を位置図に赤○印を付けて示し、撮影した各写真にも大体の位置を示すために楕円型の印を付け(別紙写真②参照)、深谷公図の該当地番(枝番八、九)を赤線で囲い、これらを添付したうえ、前記のとおり、現況調査年月日、位置及び近隣周辺の概況、土地の概況等と対象土地の価額査定の根拠等を記載した評価書を作成し、同年八月一七日、執行裁判所に提出した。

(二) 執行対象土地及び近隣の状況

深谷の土地(概ね赤斜線部分)及び「本件対象地」(青斜線部分付近)は、神姫バス「里脇」停留所から農村地帯(久次地区は約六〇世帯あり、その約半数が山林所有者である。)を抜けて山間部に入り、未舗装の山道を経て標高一二〇メートル付近にある宍粟谷大池(里脇から約二キロメートル)及びその北側にある真谷池の東側に展開する標高一六〇メートル程度の低い山々が続く自然林地域にあり、最も近い住居(立助忠二宅)からでも約六〇〇メートル奥まった位置にある。両土地を含む周辺の山林は、開発もされないまま放置されている状態であり、接面道路もなく、電気・ガス・水道等の供給処理施設も全くなく、未利用の雑木林地である。北方近距離に新興の開拓果樹園があり、西方には美奈木ゴルフクラブがあるが、このような大規模開発は別として、個別的に開発する可能性は極めて低く、現況の雑木林が標準的な使用方法と目される(<書証番号略>、証人池田武生、同末本清、検証)。

(三) 現況調査と執行官の責任

(1)  民事執行法は、民事訴訟法第六編(強制執行)と競売法を統一して、民事執行の基本法として制定され、昭和五五年一〇月一日から施行されたものであるが、この法改正の主眼の一つは、執行手続を迅速・適正に遂行するようにすることにあった。

そして、執行手続の適正化を図るために、悪質な競売ブローカーを売却手続から排除し、一般市民による買受けの申出を容易にする方向で売却方法の改善を図るとともに、適切・妥当な売却価額を定めるためには売却不動産の現況と権利関係の確定が必要であり、そのための方策として執行官の現況調査権限の拡大を図り、執行裁判所による事実調査権限を強化した。

すなわち、執行裁判所は、執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じなければならないものとし(民事執行法五七条一項)、執行官には、目的不動産への立入調査権や債務者等への質問権や文書提示要求権等を与え(同条二、三項)、正当な理由がなくこれらの要求に応じない場合等の制裁規定も設け(同法一九六条二号)、さらにこのような権限を行使しても事実を確定できない場合は、執行裁判所において利害関係人を審尋することも予定している(同法五条)。

そして、執行官の現況調査により執行対象物件の占有や権利関係の現状が正確に把握されれば、売却条件が明確になり、適正な価額の設定が行われることになり、競売制度の信用性を向上させることになる。

こうして調査された結果は、現況調査報告書として執行裁判所に提出され、評価書と物件明細書とともに執行裁判所に備え置かれ、買受けの申出をしようとする者の判断資料ともなるから、執行官は、その判断を誤らせないよう正確な現況の調査をし、報告する義務があるというべきである。

(2)  しかし、執行裁判所は、通常の売買の売主とは違って、執行対象物件について正確な知識を有しているわけではないし、本件のように債務者や物件所有者の所在が明らかでない場合もあり、担保権者においても物件の状況を正確に把握しているとは限らないのであって、その形状や権利関係を解明することは必ずしも容易なことではない。そのため民事執行を申し立てる場合、申立書には執行目的の財産の表示を要求し(民事執行規則二一条三号)、執行対象物件の所在地等を申立人が明らかにすべきことを求めている(実務上は申立債権者に物件所在図を提出させている)。

そのような事情に加えて、執行官は、大量の事務を迅速に処理する必要があり、また、現況調査費用は執行費用として債権者の負担となるのであるから、事案に応じた経済性も無視することはできないのであって、当該事件でどのような調査方法を選択し、どの程度の調査を実施するかは、その事案に応じて執行官が合理的に判断して決定すべきものであり、場合によっては、容易に入手できる資料のみに基づいて一応の特定をする程度で止めたり、物件の特定が不能あるいは不明である旨の報告も許されると解するのが相当である。

したがって、執行官に執行対象物件の調査に関する責任を全面的に負わせるのは相当でなく、執行官の現況調査の権限を前提としつつ、当該物件の価額や利用形態等に鑑み、社会的に相当とされる調査が行われておれば、仮に現況調査に誤りがあったとしても、それをもって過失とするのは相当ではない。しかし、執行官が合理的な裁量に著しく反して、当該事案について当然に期待される基本的な調査を怠ったため、執行対象物件の位置等の判断を誤り、あるいは調査の程度が一応のものに過ぎないのに、十分な調査が行われたかのような現況調査報告書を作成した結果、買受希望者に誤った情報を提供し、買受希望者自身の調査に悪影響を与えるなどして判断を誤らせて、損害を生じさせた場合には、現況調査に過失があるといわざるをえない。

(四) 本件現況調査における執行官の過失

以上のような執行官の責任を前提に、先に認定した本件現況調査における佐藤執行官の過失の有無について検討するが、佐藤執行官は、前記認定のとおり独自の現況調査は全くしておらず、池田評価人の調査結果を案内図及び深谷字限図と対比して採用したに過ぎず、実質的な現況調査は池田評価人が行ったものであり、池田評価人の調査は、佐藤執行官の調査と同視するのが相当であるから、以下、佐藤執行官の現況調査と共に池田評価人の調査の問題点について検討することとする。

(1) 池田評価人が現地を探索した際の資料は、前記のとおり、債権者から提出された案内図、深谷公図、深谷字限図、位置図である。このうち公図・字限図は、ほぼ同一の一字限図であるが、それだけでは現地を探索する資料となるものではない。また、位置図も大字久次の表示はあるが、小字の記載はなく、それのみでは深谷の土地を知る手掛かりは得られない。結局、当時池田評価人が入手していた資料のうち、案内図のみが「大池」の北東至近の位置に対象不動産があることを示しており、これと位置図を比較対照すると、案内図の「大池」は宍粟谷大池のことであることが分かる。

したがって、池田評価人は、案内図を根拠に調査対象土地が宍粟谷大池の北東至近にあると見当を付けたものであると考えられる。

ところで、案内図(物件所在図)は、競売申立債権者に提出させるものであり、債権者は、担保を設定する物件について相応の調査をしていると考えられるから、特段疑問とする点がなければ、これに相当の信を措いたとしても不当とまではいえない。

しかし、本件の案内図は二万八〇〇〇分の一の地図(<書証番号略>)であり、物件の位置を○印で示しただけのものであって、これに至る経路を示す以上の役割はほとんど果たせない極めて大雑把なものであることは図面自体から明らかであり、しかも、このような低価格の山林の場合、担保設定時に現地調査が行われないことも少なくないのであるから、このような案内図のみによって物件を特定することはいささか危険である。少なくとも、案内図が作成された経緯を債権者に尋ね、担保設定時に現地調査がされているのか否か、どの程度の調査がされたかを確認する必要があるというべきである。

しかるに、池田評価人は、事情聴取することに特別な支障があるとは考えられない債権者に対し、何らの説明を求めた形跡もない。

(2) 次に池田評価人は、現地の近くまで赴き、農作業をしていた者に字深谷の所在を尋ね、前記のような説明と身振りで宍粟谷大池を右に曲がった辺りに字深谷があると判断したものであるが、大字久次内の小字の所在を知る手掛かりとなる図面も全く持ち合わせず、尋ねた相手に地図を示したり、案内を乞うこともしておらず、身振りで宍粟谷大池を右に曲がった辺りに字深谷があると思っただけで、宍粟谷大池からどの程度右に行ったところか、同池に面しているのか等、何ら具体的な説明も求めていない。

しかし、前記のような地元住人に対する事情聴取が不十分であることは多言を要しない。池田評価人が地図を示して説明を求めるなど、もう少し丁寧に字深谷の所在を尋ねれば、より正確な情報が得られた可能性は高いし、たまたま出会った者が知らなかったとしても、一キロメートル程度の所に集落があり、その集落に山林の所有者がいることは位置関係から見て容易に推察できるのであるから、山林所有者を訪ね、字深谷の位置を尋ねれば、概略の位置はたやすく判明するはずである。また、町役場や地元住人に問えば、地区の区長や長老を知り、事情を聴取することも困難なことではなく、正確な境界は無理でも、小字の所在地程度のことを教示することを拒まれることは予想し難く、地区の区長等、地元の長老から説明を聞けば、人家から離れた山林であっても字境の概要程度を知ることはさほど困難なこととはいえない。

にもかかわらず、池田評価人は、前記のような杜撰な聴取しかせず、二度目に現地に赴いた際には、地元住人からの事情聴取を試みさえしていない。

池田評価人が、地元住人からのこの程度の指示で「本件対象地」を深谷の土地と判断したのは、案内図を鵜呑みにし、宍粟谷大池の北東に深谷の土地があると軽信していたためとしか考えられない。

(3) また、地元区長等に面談するなどの調査をすれば、久次字限図のような山林の所在を示す地図等を入手する可能性もなかったとはいい難い。区長等から適切な図面等の提供が受けられない場合であっても、公図については、深谷公図のような一字限図のほかに一村限図もある場合もあり、それがなくても深谷の周辺の公図を入手することは容易であり、それらを比較検討すれば、一字限図では判明しない現地との照合関係を知りうることも多い。

にもかかわらず、池田評価人は、深谷公図を筆写しただけで、周囲の公図を検討した形跡はない。

(4) そして、池田評価人は、宍粟谷大池の北東至近に深谷の土地があることを前提として、付近の地形を深谷公図と対照し、「本件対象地」の近くの地形が深谷公図の二つの大きな入江部分を持つ字深谷の山林と一致すると判断したものであるが、深谷公図の入江部分の大きさと比べれば、「本件対象地」の付近にはそれに匹敵すると見られる地形の変形した部分は見られない(検証)。池田評価人が明らかに異なる地形を無理に当てはめようとしたのは、これまた案内図にのみ依拠していたためとしか考えられない。池田評価人が地元住人から適切な情報を得たり、周囲の公図を入手するなどして、字深谷が真谷池の東側にあることさえ知れば、深谷公図の入江部分が池田評価人の判断とは異なり、真谷池の入江を示すことが判明し、執行対象土地を探索する手掛かりが得られたものと考えられる。

(5) 結局、池田評価人は、山林調査の基本である地元関係者からの事情聴取も適切に行わず、公図等の有力な判断資料も収集せず、作成の経緯や正確性も確認していない二万八〇〇〇分の一の地図に○印を付けた案内図のみを頼って執行対象土地を特定したために、宍粟谷大池の東側にある字岡城を真谷池の東側にある字深谷と間違えたものである。

(6) ところで、佐藤執行官は、池田評価人に調査を任せていたとはいうものの、現況調査の責任は執行官である佐藤にあるのであるから、池田評価人の調査結果を鵜呑みにするのではなく、自らの経験と知識を元に、その結果の正当性を吟味すべきである。すなわち、本件の場合、案内図には前記のような問題があるのであるから、池田評価人がその作成経緯についてどのような調査をしたのかを確かめ、深谷公図と現地との適合性についての池田評価人の判断を質し、地元住人からの事情聴取の状況等を確認する必要があったというべきである。特に、池田は評価人であって、債権者や地元住人に対する事情聴取は困難な場合もあり、また、聴取をしたとしても十分な回答を得られないことなども考えられるのであるから、執行官としては、評価人の事情聴取が適切か否かを確かめる必要性は高い。その結果、不十分であると思えば、質問権や文書提示要求権等の事実調査権を活用して、自ら調査し、その調査結果も加えて、池田評価人の判定の当否を検討すべきものである。

しかるに、佐藤執行官は、池田評価人から現地を案内されて、池田評価人が該当物件と考えた山林を示したのに対し、池田評価人がそのように判断した根拠や調査の経過を尋ねることすらせず、前記のように不十分な案内図と深谷字限図のみで、その示された山林が深谷の土地に近似していると速断し、そのため、佐藤執行官は、池田評価人が山林に囲まれた農地と判断した深谷公図の右側の入江部分を宍粟谷大池の入江部分と判断し(証人佐藤武)、両名が執行対象土地と考えた位置も別紙写真①②を比較すれば明らかなようにかなりずれている。

(7) このように池田評価人の調査、ひいては佐藤執行官の現況調査は、十分なものとはいい難いものであったにもかかわらず、前記のとおり、佐藤執行官は現況調査報告書、池田評価人は評価書をそれぞれ提出し、これに基づいて作成された物件明細書とともに執行裁判所において一般の閲覧に供するに至ったものであるところ、右現況調査報告書や評価書には、物件所在地に立入調査をし、地元住人への聴問を行って執行対象土地が確定されたような記載をし、図面や写真を添付しており、十分に調査した上での情報提供ととられてもやむを得ない体裁となっている。

(8)  以上の事実に基づけば、佐藤執行官の現況調査は、債権者への事情聴取、地元住人からの情報収集、あるいは周辺の公図等との比較検討など、本件の場合、時間的にも経費的にもさほどの負担となるわけではない調査をいずれも怠ったため、字自体を誤るに至ったものであり、執行官としてなすべき基本的な注意義務に違反したものであって、現況調査を担当する執行官の有する合理的な裁量の範囲から著しく逸脱したものといわざるを得ず、過失があったものと認めるのが相当である。

被告国は、山林の境界確定の困難さを指摘し、「一山いくら」で取引されるような山林の競売に当たって、訴訟事件にも匹敵するような現況調査を要求すれば、調査費用が評価額さえ上回ることになり、山林の執行は費用面から不可能になりかねないなどと主張するが、被告国も買受希望者の便宜を図り、民事執行の円滑な進行を図るため執行対象土地を特定する必要があることは否定していないところ、そのような調査は、時間的、経済的制約を考慮しながらもできる限り正確なものでなければならないことはいうまでもない。本件についていえば、執行対象土地が山林であり、その位置、利用状況、価格等を考慮すれば、正確な境界まで確定する必要はなく、佐藤執行官が写真にサインペンで概略の位置のみを示した程度の特定でもやむを得ないものというべきであるが、前記のような基本的な調査によって容易に判明する字の位置を誤るようなことまでも、民事執行の迅速性や経済性を理由に正当化することはできないし、前記の程度の調査を要求したからといって、民事執行のそれらの要請に反するものともいいがたい。

また、被告国は、調査対象物件の性格から、特定が困難である場合には、入手可能な資料の範囲内での一応の特定に止めることも許されると主張するところ、そうであれば、調査の実情を現況調査報告書に正しく記載し、十分な特定ができていないことを明らかにして、買受希望者に誤信を生じさせないように配慮すべきである。

2  被告国の損害賠償義務

以上のとおり執行裁判所は、執行官の過誤により執行対象土地を誤って売却したものであるが、不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分が関係人間の実体的権利関係に適合しない場合において、右処分により自己の権利を害される者が、強制執行法上の手続による救済を求めることを怠り、このために損害を被ったときは、執行裁判所みずからその処分を是正すべき場合等特別の事情がある場合でない限り、その賠償を国に対して請求することはできないと解されている(最高裁昭和五七年二月二三日第三小法廷判決・民集三六巻二号一五四頁参照)が、この理は任意競売にも当然適用され、また、執行裁判所の補助機関としての執行官の行為により損害を被った者がある場合にも妥当する。

しかるところ、本件の場合、後記認定のとおり、原告自身も買受人として期待される調査を十分にしなかったため、現況調査の誤りに気付かず、買受けの申出をし、代金を納付するまでに至り、民事執行法上の救済手続を採ることができなかったものであるが、他方、執行裁判所も執行官の現況調査の誤りを是正することなく、これに基づいて物件明細書を作成し、誤った現況調査報告書や評価書を閲覧に供したのであって、現況調査の結果の誤りが執行官の過失に基づくもので、その違法が明白、かつ、重大な場合には、本来執行裁判所においてこれを是正すべきであるから、右にいう特別の事情がある場合と解するのが相当である。

そして、本件では、先に判断したとおり、執行官が基本的な調査を怠ったため、執行対象土地を誤って特定したものであり、その違法性は重大であり、かつ、明白であるから、被告国は、これによって原告が被った損害を賠償する義務がある。

3  執行官の過誤と原告の誤判断による損害との相当因果関係

(一) 原告の調査及び判断

原告は、かねてから警察犬の訓練所を兼ねた子供の情操教育の場所を求めていたところ、信用金庫で本件競売事件を知り、神戸地方裁判所に赴いて三点セットの閲覧をし、その面積や地形(南向きの緩やかな傾斜地)等から適地と考え、評価書に執行対象土地が宍粟谷大池の北東に位置すると記載されていた(正確には「北東至近」)ことを頼りに、道路地図を頼りに現地に赴き、付近の住民に宍粟谷大池の所在を尋ねたが、これを見つけることができなかった。その後再び現地に行き、宍粟谷大池の最も近くに住む立助忠二に出会い、宍粟谷大池まで案内してもらい、現況調査報告書や評価書に添付された図面や写真で認識していた執行対象土地と思われる山林(青斜線部分)を発見したことが認められる(<書証番号略>、証人末本清、原告本人)。

(二) 被告国は、執行対象土地を青斜線部分であると判断したのは、原告自らの過失によるものであり、執行官の判断の誤りと原告が執行対象土地を誤ったことによる損害との間には、相当因果関係がないと主張する。

しかし、三点セットを備え置き一般に閲覧させるのは、執行対象土地の所在、形状あるいは権利関係等の判断資料とするためであり、通常、買受希望者はこれらの資料によって執行対象土地を知り、そのうえで必要に応じて独自の調査をしていくものである。したがって、買受希望者が現況調査報告書等の記載と全く関係なく、執行対象土地を誤ったのでない限り、独自調査が不十分であったり、執行対象土地の判断に多少のずれがあっても、それだけで執行官の判断の誤りと買受希望者の誤判断による損害との間に相当因果関係がないということはできない。

そして、右のとおり、原告は、現況調査報告書及び評価書の記載を頼りに執行対象土地を探索したものであり、佐藤執行官が現況調査報告書により執行対象土地として表示している位置と原告が執行対象土地と判断した青斜線部分とは一部で重なっており、多少の齟齬はあっても、誤った現況調査が原告の判断に大きな影響を与えたことは明らかであり、被告国の右主張は採用できない。

4  原告の損害

(一) 買受代金

原告が本件競売事件で四〇〇万円の買受代金を納付し、同額の損害を被ったことは前記のとおりであるが、国家が設営する民事執行制度等においては、不可避的に権利侵害の危険が伴うものであり、その手続内において、権利侵害からの救済やその顕在化を防止する法的手段が用意されている場合は、先ずその手段を利用すべきであり、手続内においての救済手段がない場合でも、利害関係のある者の間において、その損害の回復の手段があり、その実現が容易かつ確実である場合には、先ずその実現を求め、それらによっては権利侵害からの救済を図ることができない場合に、補充的に国家賠償を認めるのが相当と解される。

そうすると、本件の場合、先に判示したとおり、原告は、民法五六八条二項により、原告が納付した買受代金のうち被告商工中金が配当を受けた三六九万四四〇〇円について返還請求権を有するところ、同被告が無資力等の理由でその権利の実現ができないような事情は認められないから、右の限度では、国家賠償を求めることはできないものというべきである。

しかし、競売手続費用に相当する三〇万五六〇〇円は、原告が買受代金として納付しながら、被告商工中金から返還を求められないものであるから、損害と認められる。

(二) 犬舎建設費用等

(1) 原告は、昭和六〇年四月末ころから、青斜線部分の土地に警察犬訓練所を建てることとし、二、三人で先ず必要な部分の樹木を伐採して斜面を整地し、同年五月一五日ころまでに、井戸を掘り、人が休憩したり、臨時に泊まれるようにするため、ブロックの基礎の上にプレハブの小屋(六畳位)二棟を設置したほか、建築用パネルを使用して犬小屋を三棟建設したことが認められる(証人末本清、原告本人、検証)。

(2) そして、原告本人尋問の結果によれば、資材代として、プレハブ住宅代(組立費用を含む)一一〇万円、鉄筋コンクリート製の土留用の井戸側代五万四〇〇〇円、犬小屋用の建設パネル代六万円の合計一二一万四〇〇〇円を要し、建設機材の購入費等として、井戸掘作業用機械のリース代五万円、発電機代六万円、チェンソー代三万円、鋸代三万円の合計一二万円を要したことが認められる。

(3) 原告は、右のような作業に六か月位かかり、その作業をした者の人件費として、津田仁に一八〇万円、金本健に七五万円を支払ったと主張し、<書証番号略>及び原告本人尋問の結果は右主張に沿うものであるが、<書証番号略>は後に両名が作成した証明書であり、就労期間等具体的な記載もなく、前記伐採や整地作業の期間が二週間程度であるのに、津田の証明書は一日一万円として六か月分にも及ぶものであり、たやすく採用できない。また、金本健は、原告の息子(一八歳位)であり、子供の情操教育の場としても考えていた土地の整地等を協力させながら、多額の対価を支払ったというのも不自然であって、この点も採用できない。

しかし、原告らが樹木の伐採や整地等をしたことも事実であるから、その作業期間も考慮し、原告自身及び第三者に対する労務賃として、三〇万円の限度で認めるものとする。

(4) 原告は、佐藤執行官の現況調査の過誤により、青斜線部分を執行対象土地と信じて取得したが、他人の所有地であったため、その明渡を余儀なくされたものであり、その事実が判明する以前にこれらの費用を投じた結果、同額の損害を被ったものであるところ、青斜線部分は接面道路もない山林であるが、池の畔の緩やかな傾斜地であり、このような山林内に井戸を掘り、簡易なプレハブ住宅を設置し、キャンプ場のように利用することは十分考えられることであるから、以上の損害のうち、プレハブ住宅代(一一〇万円)及び井戸関係一〇万四〇〇〇円(井戸側代と井戸掘作業用機械のリース代)と樹木の伐採及び整地の労務賃三〇万円(合計一五〇万四〇〇〇円)は、執行官の過誤と相当因果関係のある損害と認められる。

しかし、犬小屋用の建設パネル代は、後述のように特別損害となり、執行官の過誤との間に因果関係が認められない。また、発電機代、チェンソー代及び鋸代は、訓練所の開設のみのために使用される道具ではないからその全てが損害となるわけではなく、使用損害があるにしてもその額について的確な立証もないから、損害とは認められない。

(三) 犬の死亡による損害

原告は、日本警察犬協会の会員であり、以前からシェパードやドーベルマン等を趣味で飼育・訓練していたが、青斜線部分の土地を競落できたことから、同地上に警察犬の訓練所を建設することを計画し、右土地を競落したころから順次二六、七頭のシェパードやドーベルマンを入手してきたが、予定していた訓練所が建設できなかったため、運動不足のためストレスがたまってその多くが死亡したとして、六頭分一八〇万円の損害賠償を求めており、<書証番号略>及び原告本人尋問の結果は、右主張に沿うものである。

しかし、原告本人尋問の結果によれば、山田から青斜線部分の明渡を要求されたころまでに既に六頭が死亡していたことが窺われるところ、その死亡時期や原因も明確ではなく、その後に死亡したという多数の犬の死亡原因についても明らかではないが、訓練所が開設できなかったことと犬の死亡に何らかの関係があったとしても、先に認定したように青斜線部分付近の山林は、開発もされず放置されたような未利用の雑木林地で、接面道路や供給処理施設も全くなく、個別的に開発する可能性の極めて低い地域であることからすれば、進入道路の用地を取得して整備すること自体、採算を無視した事業となるだろうし(青斜線部分は、それに接する南側の田を通れば容易に出入りできるが、他人地を通行することを前提にすることはできない)、多数の警察犬を飼育するとなれば、地域住民や水利権者の承諾を得る必要も生ずると考えられるが、たやすくこれらの承諾が得られるとも思われず、原告の主張するような警察犬の訓練所という利用方法は、本件執行対象土地の通常予測されない使用方法といわざるをえず、結局、犬の死亡による損害は、特別損害であり、被告国が原告のこのような目的を予見できたと認めるに足りる証拠はないから、執行官の行為との間に相当因果関係を認めることはできないことになる。

5  過失相殺

不動産の強制換価手続である競売手続は、通常の売買と異なって、債務者や物件所有者の所在が不明な場合などもあり、その手続を進める執行裁判所において、物件の正確な状況を把握することが容易でないことも少なくないのであるから、買受希望者は、三点セットを参考にしつつも、取得した場合の利用目的等に照らして、相応の独自調査をすることが期待されている。しかるに、原告は、前記のように現況調査報告書等から知ることのできる位置、形状、地勢、宍粟谷大池との位置関係、樹木の様子等を基に自らの調査を行ったものに過ぎず、積極的に新たな資料を用いて深谷の土地を捜索した形跡はない。しかも、地元住人の中でも宍粟谷大池及び真谷池に最も近い所に住み(宍粟谷大池から約六〇〇メートルの距離)、小作として岡城池の南側の農地を耕作し、近辺の事情は一応把握しており、字深谷と字岡城の識別等が可能であった立助忠二に宍粟谷大池まで案内を受けながら、深谷の土地の字や地番さえも告げなかったためか、結局、青斜線部分が字岡城に属することさえ発見できなかった(<書証番号略>、証人末本清、原告本人)。

原告が執行対象土地を現状のような雑木林として特に利用もしないというのであれば、この程度の調査でも特に問題があるわけではないであろうが、山林内に施設を設けるなどして利用することを計画していたことからすれば、その調査は極めて不十分であったといわざるをえない。

また、本件競売手続においては、対象土地が写真①②のように大体の位置関係を示す程度にしか特定されていないのであるから、現実にこのような土地を利用しようとするのであれば、さらに厳密な調査を尽くして、境界も確定する必要があるし、接面道路もないのであるから、進入路の確保についても検討すべきである。しかるに、原告は、そのような調査を尽くすこともなく、地元住人との協議や承認を受けることもなく、他人地を無断で通って、青斜線部分に立ち入り、樹木を伐採したり、プレハブ住宅を設置したのであって、競売代金以外の損害が生じた主たる原因は、原告のこのような調査不足と独断的な開発行為にあったというべきであり、この点での原告の過失は極めて大きいものといわざるをえない。

よって、以上を総合して、原告の過失割合を八割と判断する。

そうすると、被告国は原告に対し、競売手続費用相当分三〇万五六〇〇円と工事関係費用一五〇万四〇〇〇円の合計一八〇万九六〇〇円の二割の三六万一九二〇円の限度で賠償する義務があることになる。

五まとめ

以上の次第であるから、原告の被告商工中金に対する主位的請求は、三六九万四四〇〇円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和六三年五月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、主位的請求が認められない部分に関する予備的請求は理由がなく、原告の被告国に対する請求は、前記三六万一九二〇円とこれに対する買受代金を納付した日の翌日である昭和六〇年五月一六日から支払ずみまで前同様の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求はいずれも理由がなく棄却を免れない。

なお、仮執行宣言の申立については、その必要がないものと認めこれを付さない。

(裁判長裁判官井垣敏生 裁判官新堀亮一 裁判官清水俊彦)

別紙物件目録

一 所在 三木市口吉川町久次字深谷

地番 八八八番ノ八

地目 山林

地積 一八四四平方メートル

二 所在 三木市口吉川町久次字深谷

地番 八八八番ノ九

地目 山林

地積 七〇四平方メートル

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